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20 2002/6/12 維持管理の時代

  「よみがえれ!"宝の海"有明海」(藤原書店)。この本が広松伝(つたえ)さんの遺作となりました。広松さんの名前は、まちづくりに携わる者、心ある公務員ならなら誰でも知っています。水郷柳川の堀割の危機を訴え、奔走し、住民と一緒になって堀割の再生を実現に導いた行政マンです。
 生活用水であり、通路である柳川の堀割は、水道や道路の普及で置き去りにされ、放置された水路はゴミ捨て場と化した。腐った水路は悪臭を放ち、白秋も悲しむぶ〜ん蚊都市になっていた。そこで柳川市は観光コースの堀割以外は主な水路をコンクリート三面張りにして、他は暗きょまたは埋め立てできれいに整備する事にして、国からの予算も取り付けました。
 そして事業を担当することになった広松係長の反乱が始まるのです。「何かおかしい?」と立ち止まった広松さんは、市長に直訴しいったん工事を中止し、考えました。
 堀割には、干満の差を緩衝し洪水を防ぐ遊水機能、貯水機能、地盤沈下を防ぐ機能など、柳川の街の根元的な部分があることを科学的に実証しました。ただ一人、ヘドロだらけの水路にはいり粗大ごみと格闘する広松さんの姿に、住民は動かされ始めます。そして何よりも広松さんはじめ人々の記憶に残る水辺での生活体験が、堀割再生へのエネルギーとなっていきました。(その活動は、宮崎駿・高畠勲コンビの映画「柳川堀割物語」でも紹介されました。)
 この春、広松さんにお会いすることができました。まちづくりの仲間たちとお話を聞いたわけです。「二十一世紀は維持管理の時代です。」広松さんの言葉であります。  
 東に向かった仲間たちと別れ、島原に帰る僕だけが時間待ちで柳川にとどまり、広松さんのお宅にお邪魔しました。市役所OBとは思えないつつましい家で、広松さんの部屋にはたくさんの本と趣味の釣り道具などがありました。「このごろはよく海(有明海)に出ているんですよ」と日焼けした笑顔でおっしゃった。
 「ではまた」と別れたまま、一期一会となってしまいました。