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2 2000/7/00 本当のことが言えない。

 アンデルセンの童話に『はだかの王様』というのがあります。
 衣装道楽の王様が「かしこい正直者には見えるが、バカや悪者には見えないという世にも不思議な衣装」を手に入れ、王様本人も家来たちも見えないのに、自分はバカで悪者と思われたくないばかりに、本当のことが言えず、お披露目のパレードにまで発展しますが、市民たちもバカと思われないように見えもしない王様の衣装を誉め讃えるというわけです。
 無邪気な子どもが「王様は裸だ、何も着てない。」と言ったのがきっかけで、市民たちは事の真相に気づきますが、ひっこみの着かない王様は最後までパレードを続けるというお話です。
 銀行救済の時も変だと思っていましたが、この度の「そごう借金棒引き」に至っては誰も正しいとは思っていません。しかし王様に取り入ったイカサマ師は「本当に日本の将来のことを考える、経済のよく分かる人には正しいことが分かるはず。」と言い、王様も家来も人々も、日本の将来のことなんか考えていないこと、経済がさっぱり分からないことが発覚するのを恐れ、本当のことが言えません。
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 『はだかの王様』の作者は本当にアンデルセンでよかったかなと心配になり森岳商店街のそばの島原図書館に調べに行きました。ここの司書の方たちはいつも親切に対応してくれます。(島原図書館にないときは、県立図書館などから取り寄せてくれたりもします。)
 さすがに有名な童話で七冊も八冊も発見することができました。本当のことを本当だと言える子どもになってほしいと願う、童話出版社や訳者の熱意の反映かなと思いながら、二冊を選びました。
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 図書館のカウンターで本を借りようとしたら「本当のことが書いてある本は貸出禁止なんです。」と奇妙なことを言われ、そんなバカな!と、途方に暮れていると……妻が「うなされていたけど悪い夢でも見たの?」と心配する枕元に借りていた『はだかの王様』二冊がありました。