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10 2001/6/5 質素なスカウト

 僕は、少年の頃ボーイスカウトだった。
 数学年にまたがる子どもで構成する班活動は最初なじみにくく、インドア派だった僕にはハイキング訓練のような野外活動は苦手。音痴なので集会で必ず歌うソングもうれしくはない。さらに三つの誓いと十二の掟(おきて)を丸暗記して、しかも日々実践すべしという厳しいものである。集会が待ち遠しいなんて思ったこともないのに、結構休まず参加していたのが今考えると不思議だ。
 野営のとき。たき木を集めて火をおこす。要領を得ないうちは生木から出る煙に目を真っ赤にしてヒョットコ顔で息を送り込む。他の班はもう食事が始まっているのに、自分の班はまだ火も燃えさかってくれない。腹はグウグウ鳴る。ようやく出来たご飯はちょっとゴッチンだが、自分たちで作った食事は格別である。でも腹を下す。
 そんなふうにして自然と格闘しながら、できなかったことが一つずつできるようになっていく。
 時代は高度成長期にさしかかり、夏の三泊野営のためだけに寝袋を持参する裕福な子も出はじめていた。そんな中、毛布の三分の二をうまく縫い合わせて筒にした寝袋を工夫しているスカウトがいた。三分の一の部分を重ねたりして暑さ調節の出来る優れものだった。当然彼の方が皆の尊敬を集めた。
 上級生になるにつれて僕はスカウト活動に熱心になったが、進学して島原を離れたのをきっかけに遠ざかってしまったけれど…
 現在、学習塾や習い事などいろいろな事情でスカウト活動は下火とのこと。「誠実」「親切」「勇敢」など十二の掟も(だれでも入りやすいように)八つに減ったと聞いて、「質素」の徳目はふるい落とされたかなあと心配していたら、しっかり「スカウトは質素である。」と明記されていて、安心した。
 当時、新品の制服より、先輩のお下がりの制服に補修を重ねたものの方がかっこよくて、袖(そで)に輝く「裁縫技能章」は質素なスカウトの誇りであった。穴あき靴下の修繕に時間をかけても、しかられなかった少年たちは恵まれていた。