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市議選レポート

■楠さん立つ!

 誰もが「しょんなか」と無投票選挙に諦めの嘆息をもらしていた県議選(島原選挙区)に、これでは日本中に笑われるとアリンコ楠大典候補が巨象に挑む決心をした。新聞報道を見て、せめて常識欠如厚顔無恥族への批判を込めて良識の1票を投じようと考えた。それから毎朝、雨の日も風の日も、市役所横の国道251道路脇に奥さんと二人直立不動。「政治刷新」の決意表明だった。選挙戦前なので、名前を連呼するわけにもいかない。

 実は、政治(選挙)音痴だった私は、なぜ「楠大典」のタスキをかけて名前をアピールしないのだろうか、と「おはようございます」しか言わないブキッチョな夫婦に「散りゆく桜」のような哀愁を感じていた。

 昼は写真屋、夜は学習塾。ただでさえ余裕がないのに、がんばスタンプがようやく動き出し、超多忙な中。森岳まちづくりの会、春の島原城のぼりあげも直前に迫っていた。すでに県議選に突入していた。友人K君から電話があった。「森岳公民館の楠さんの決起大会に行こう。」と。同級生Yからも誘いがあって、うーむみんな熱心だなあと思った。

 4月7日はちょうど塾の空き時間で、集会に人が少なくては盛り上がらないと、妻智子と参加した。2階大ホールがほぼ埋まるくらいの集会だった。諫早の楠さんの同級生や福岡の女性Nちゃんが応援のマイクを握り、真打楠さんの決意を聞いた。奥さんを説得するや、翌日には記者会見を開き、県議選に専念するために市議を降りたことなど、楠さんの想いが伝わってきて、涙があふれた。しかし、選挙スタッフの人たちに、「選挙権のない諫早や福岡の人でなく、島原の人が応援演説をするべきだ。」と意見を言った。このときまでは他人事だった。

 「松坂君、やってくれないかね。明日白山の集会で応援者がいないんだ。」と逆襲された。この辺が私の軽いところで(慎重さを欠くとけなす者、行動力があるとおだてる者あり)、「僕なんかが応援したら返って足を引っ張りますよ」と謙遜をしながらも、先程の演説で皆の拍手喝采を浴びていたNちゃんの前座なら、私の感じていた不満『島原の人の応援はないのか?!』は解消して、効果があるはずだ。そう考えて二つ返事でOKを出した。

■応援演説(白山公民館)

 まちづくりの講演などで人前で話したこともあるし、(失敬だが、聞いてる人は少ないだろうし、どうせ負けるんだから、せいぜい悔いの残らない応援をしようと)軽く構えて、面白おかしく前座を勤めようと考えた。いざ舞台に上がると緊張が走った。

 (相手候補の夫について)本人が黒だといって罪を認めているのに、何で周りの応援者が白だというのか、本人は迷惑だろう。奥さんに罪はない。親が犯罪者だ、夫が罪人だという理由で、なんでその子や妻が非難されるのか。個人は尊重されるべきだ。奥さんが立候補するのは自由だ。しかし大手広場で応援に立った正直な市長は候補者の夫の功績を散々たたえた挙句、候補者の名前を言わず、その夫の名前を言って投票をお願いし、スタッフが訂正を入れた事実を報告し、そんな正直な市長が大好きだと言い放った。楠さんの決心に言及する段になると、さすがに感極まって言葉に詰まった。結果、笑いあり涙ありで、われながらまあまあの演説だったと納得。役目を終えて塾生の待つ家に戻った。

■応援演説(2回目:民宿三幸)

 相手候補が文化会館の決起集会に1700人を集めた翌日4月11日、楠さんの息子さんが訪ねてきた。白山公民館の応援がなかなかいい評判でしたよと、おだてて(本心かもしれない?)「今晩の集会でも応援をお願いしたい」と申し出があった。

 白山での応援のとき楠さんの決心を再確認するうちに、自分も市会議員に立とうと考え始めていたので、自分の市議選を意識して、白山のときみたいに純粋に応援が出来ないかもしれないと、初めて息子さんに正直に打ち明けて、しかしあくまで応援に徹することを誓って引き受けた。

 白山の応援は「島原市民も応援している」ということに意味があった。今度は地元である、私のことをよく知っている人間が何人もいる。人間がばればれなのである。謙遜ではなく、本当に
楠さんの足を引っ張るのではないかと不安になった。すでに白山のうわさが流れて、2〜3相手側陣営からのバッシングを受けていたので、市役所わきの地元で話をすることで今後仕事がやりにくくなるのではと心配の声も聞いていた。自意識過剰になり、まさかの事故に備えてその日、不在者投票を済ませて演説会場に乗り込んだ。

 新田町の民宿の2階広間には、十分前になってもまだ十数人しか集まっていなかった。時間になると三々五々集まり200名ほどになりました。それでも前日の相手方は1700人を集めたということで、まさにアリンコ対巨象でした。

 再びマイクを取って白山公民館ほどうまくはいきませんでしたが、正直に話しました。市役所の前で仕事をしている自分にとって、そのトップである市長が相手方についている。市役所の仕事は来なくなるかもしれない。そうした不安も隠さなかった。それでも自分たちは単なる応援の一人だ。何人もの人が、こんなおかしなことは許せない、無投票を阻止するために立候補してやろうかとチラとは思ったかもしれない。しかし決断をしたのは楠さんただ一人だ!「思うこと」と「決断すること」は似ているが大きな違いがある!決定的な違いがある!この決断力こそ政治家に求められているものだ。そう力説しながら、この時私は自らの決心を固めたものの、暗澹たる思いでした。

 4月13日、県議選の結果は皆様ご存知のとおり奇蹟の大逆転、島原市民の良識を証明しました。

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